2011年1月3日月曜日

戯歌・2

行きたいところは貴方の所
手に入れたいのは貴方の心
抱かれたいのは貴方の懐
せめて触れたい掌(たなごころ)

2010年4月9日金曜日

桜の木の下で

初恋の人に手紙を出したのは
桜の木の下のポストからだった
どんな手紙だったかは思い出せない
雨が降っていた
傘をさして少し遠いそのポストまでまわり道をした

初めて恋人に電話をかけたのは
桜の木の下の電話ボックスだった
何を話したのかは忘れてしまった
夜の公園はいつもと違って見えた
街灯の下で白い花が揺れていた


今日あなたにメールを送った
悩んだ末のあたりさわりのないメール
桜の木を見上げながら送信ボタンを押した
夕闇せまる中
満開の桜がうす紅色にざわめいていた

この空をこの花を
あなたの胸に映し出せたらと思った


            (初出:2008年4月3日【みふみのトーキョー彩・時・記】
             この時期になると思い出す自作の詩。
             比較的反応も大きかったように記憶しています。
             誰にとってもやはり、桜は特別な花なのでしょうか)

2010年2月26日金曜日

戯歌

ついて行きたい花いちもんめ 月が見ていて行かれない
ついて行きたい花いちもんめ 明日が怖くて行かれない
ついて行きたい花いちもんめ せめてあなたの夢の中

2009年9月11日金曜日

見上げる

見上げる
空を見上げる
今、私が見ている月とあなたの瞳に映る月は
本当に同じ月影だろうか

あなたを見上げる
今、あなたが言う「好き」と私の思い描く「好き」は
本当に同じ感情だろうか

2009年2月25日水曜日

独白

あなたを大空に放して
自由に飛び回るのをずっと見ていたいような
あなたを羽交い締めにして
いっそ翼をもいでしまいたいような

何をしたいのかどうしたいのか
自分でもわからない

朝焼けの神々しさ、夕暮れの人恋しさ
夜のネオンの怪しさが窓ガラスの色を変えるように
色とりどりの想いが私に滲んで
私の何かを刻々と変えてゆく

これが人の言う、恋というものなのでしょうか

2009年1月22日木曜日

あけまして・・・

あけましておめでとうございます

……と言うにはいささか遅すぎる気も致しますが。
11月末よりほったらかしにしていたこちらの温室にも少しは種をまかねば。。。

さて、こんな言葉を拾ったので書き留めておきます。

「ワガママ」=「自己管理」
まさに現代語訳って感じですが、こう言われたら自己主張してみる気になっちゃうかも。
ひとつ今年の目標に加えてみましょうか……
ま、現代誤訳にならない程度にね(^o^)v

2008年11月21日金曜日

小説家の恋

携帯が鳴る。メールだ。午後に東京から新幹線に乗ってこの駅で降りるまで、これで4度目だ。
編集の有田が彼女に対して過干渉なのは仕方のないことだ、と亮子は思う。
有田とは亮子が作家としてデビューする前からの付き合いで、もう5年になる。出会った当時、亮子が高校を卒業したばかりだったからか、今でも有田は彼女を未成年者のように扱うことがある。そしてそれは、亮子といわゆる“不倫”の間柄となった今でも変わらない。
「未成年だったら、犯罪だっつーの」と呟いてみる。
新しい本の構想を練るため、しばらく落ち着いた環境に身を置きたい。亮子の申し出に、秋の景色が見事な温泉地のホテルを手配してくれたのは、有田と有田の勤める出版社である。当初有田は同行すると言ってきかなかった。それを避けるためにわざと週中のスケジュールを指定した。4泊5日、帰りは土曜だ。最終日、有田は迎えに来るかもしれないが、とにかく最終日までは自由なはずだ。
言葉を扱う職業だけあって、有田は時々、なかなか魅力的なメールを送ってくる。それは一般の、あるいは同世代の男性には望むべくもないことだと、亮子は思っている。だから有田に恋をした。恋人が父親に変身するなんて童話は読んだことがなかったから。
ひとつため息をついて、亮子は返事を打ち始める。
「今送迎バスでホテルへ向かってます。こちらは紅葉が綺麗です。土曜まで紅葉と合宿します。きっといいアイデアを思いつくから心配しないで」

また携帯が鳴る。有田からのメールだ。
「よい合宿になりますように。 この秋は一緒にドライブへ行けなかったから、僕の分まで紅葉を堪能してきて下さい」
先刻までよりは一歩引いた感じのメールだ。でも亮子には有田の思い描く筋書きがうっすら透けて見える。
引けば亮子が寂しがると思っているのだ。紅葉を見るたびに有田を思い出させようというのだ。こうしておいて土曜の朝に車でやって来て、ドライブがてら送っていこうと言えば、亮子が飛び上がって喜ぶと思っているのだ。
「そうはいかないわよ」
チェックインを済ませると、部屋に入る前にホテルの外へ出た。絵になりそうな木々を探してしばらく歩く。おあつらえ向きの紅葉の樹を見つけると、何度か携帯のシャッターを押した。
「良かったら、撮りましょうか?」
振り向くと肩にナップザックをひっかけた、感じの良い青年が立っていた。年は亮子と同じくらいだろうか。多分撮ってもらった画像を活用することはないだろうと思いながら、
「わぁ、嬉しい。お願いします」とにっこり笑って携帯を渡した。

夕食後、一番写りのいい画像を選んで有田にメールした。これできっと、有田は亮子をいじらしく思うだろう。亮子は亮子で、さっぱりとした気分で仕事に集中できるというものだ。
「さて、と。取材、取材」
ひとつ呟くと、亮子は部屋を出てホテルのバーへ向かった。カウンターの奥に目的の人物を見つけて手を振る。写真を撮ってくれた青年が、小さく手を振り返した。